東京高等裁判所 昭和49年(行ケ)9号 判決
右争いのない事実によれば、本件審決は違法であるから取消を免れない。よつて原告の本訴請求は正当であるから認容する。
〔編註〕 本件における事実関係は左のとおりである。
一、原告は主文同旨の判決を求め、請求原因として次のとおり述べた。
(一) 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和四一年四月一四日特許庁に対し、名称を「延線車の油圧による速度自動調整方法」とする発明につき特許出願をしたが、同四三年八月一七日拒絶査定を受けた。そこで原告は同年一〇月一一日審判の請求をし、同年審判第七三〇九号事件として審理されたが、同四八年一〇月三一日「本件審判の請求は成り立たない。」旨の審決があり、その謄本は、同年一二月二四日原告に送達された。
(二) 本願発明の要旨
延線車の回転を増幅して伝導されて作動するポンプに依り油槽よりパイプに送られる油が、一定の細径を有する絞り弁を通り油槽に還流せしめられることに依り延線車の回転の増減に応じてその制動力を増減し、延線張力と延線速度の増減が平行する如くした、延線車の油圧に依る速度自動調整方法
(三) 審決理由の要点
本願発明の要旨は前項のとおりである。
一方、特公昭三六―一〇八七四号公報(以下「第一引用例」という。)には、延線輪の回転を増速機に伝え増速機に連動するコンプレツサーによつて発生する圧縮空気の圧力を圧力調節弁の調節により調節して延線輪の制動力を調節することを特徴とする延線車について記載があり、その目的は機械的接触による制動の代りに、流体を介して制御を行い、延線輪の制動を円滑に行うと共にその調節を容易に行いうるようにしたものであることが認められる。また、実公昭三五―一五九四五号公報(以下「第二引用例」という。)には、水門扉の降下に伴い、その開放軸に連動するポンプにより油槽から導管を介して油を吸入し、これを平均落下速度調整弁に向かつて圧送し、調整弁を通過する圧送油の抵抗によつて水門扉を適当な平均速度で降下していく水門扉の自由扉の自由降下速度制御装置が記載されている。
以上認定したところに基づき、本願発明と第一引用例とを比較すると、両者は、延線車の回転を増巾して伝導されて作動する流体ポンプを用いて制御を行う延線車の流圧による速度自動調整方法において共通しているということができ、相違点としては、流体制御機構が、本願発明では、油槽よりパイプに圧送された油が、一定の細径を有する絞り弁を通り油槽に還流せしめられることにより、定速度調整が可能なように制動力を発生するのに対し、第一引用例では、圧縮空気の圧力を圧力調整弁により調整することにより一定の制動力が生ずるように構成されている点が挙げられる。そこで、この相違点について検討するに、油槽よりパイプに圧送された油が、一定の細径を有する絞り弁を通り油槽に還流せしめられることにより定速度に制動を行う機構は、第二引用例に示されているように周知であるし、第一引用例におけるような定張力の延線方法に比して定速度の延線方法が格別に秀れた作用効果を奏するとも認められず、また、本願明細書にもこれについての記載は見当らないので、本願発明の如き延線車の油圧に依る速度自動調整方法を案出することは、延線の態様・電線の種類等に応じて当業者が容易になし得る域を出ないものと認められる。
(四) 審決を取消すべき事由
本願発明の構成要件である「一定の細径を有する絞り弁」とは、「一定長の細管からなる絞り弁」のことである。しかるに審決は、これを一定の小さい断面積の絞り弁であり、一定の長さを有するという点は要件に入らないものとして判断している。したがつて本願発明の構成要件の技術内容を誤認しており、違法であつて取消されなければならない。
二、被告は、「原告の請求を棄却する。」との判決を求め、原告の主張事実をすべて認めると述べた。